PERCとYEARS

 

Wells+DDだけでの肺塞栓診療は10年以上前の診療から進歩がないと言わざるを得ません。古典的に肺塞栓のCPRsでありWells+DDに、近年はPERCやYEARsがとって変わりつつあります。これら二つの研究について追加情報となる論文を二つ確認してみました。

 

1つめの論文です

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Effect of a Diagnostic Strategy Using an Elevated and Age-Adjusted D-Dimer Threshold on Thromboembolic Events in Emergency Department Patients With Suspected Pulmonary Embolism

JAMA. 2021;326(21):2141-2149.

 

【研究目的】

PERCルールでPEを除外できなかった患者に、years+d-dimer(基準値を年齢調整)にてPEを除外するときの安全性の検証

 

【わかっていること】

yearsルールの安全性

 

【わかっていないこと】

PERCルールにてPEを除外できなかった患者に、years基準+d-dimer(基準値を年齢調整)にてPEを除外する安全性

 

【研究概要】

フランス、スペインの18の救急外来での2019年-2020年のランダム化比較試験。PERCルールにより、あるいは主観的な判断によりPEを除外できなかったPE低リスクの患者が対象。

介入期間では、YEARS基準に該当せずD-dimerが1,000ng/mL未満、またはYEARS基準1以上に該当しD-dimerが年齢調整基準値(50歳未満は500ng/mL、50歳以上は年齢×10ng/mL)未満の患者について、画像検査なしでPEを除外。

対照期間では、D-dimer値が年齢調整基準値未満の場合に、画像検査なしでPEを除外。

 

【結果・新たにわかったこと】

介入群で造影CT実施率が-8.7%低減し、救急外来滞在時間が1.6時間減少したこと。

 

【今後の診療をどう変えるか】

percルールで除外できなかったPE疑いの患者にyearsルール+d-dimerスコアを使うことで、PE除外目的の不要な造影CT検査が減る。

 

 

【日置先生発表】

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DDを待たずにPERCで不要な検査、ER滞在時間んが短縮されるという、当然と言えば当然の結果です。低リスクならDDを待たないのが正解です。

 

 

2つめの論文です

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Safety and Efficiency of Diagnostic Strategies for Ruling Out Pulmonary Embolism in Clinically Relevant Patient Subgroups : A Systematic Review and Individual-Patient Data Meta-analysis

 

Review:Ann Intern Med. 2022 Feb;175(2):244-255.

 doi: 10.7326/M21-2625.Epub 2021 Dec 14.

 

Pubmed ID:34904857

 

【研究目的】

急性肺血栓塞栓症における診断戦略についてWells scoreや改訂Geneva scoreでの安全性や効率を固定ないしは検査前確率に応じて適応させたD-ダイマー値を組み合わせて評価すること

 

【わかっていること】

臨床的に検査前確率が低く、D-ダイマー値が低い患者ではPEのr/oに際して有効であること

 

【わかっていないこと】

Wells scoreや改訂Geneva scoreなどの臨床決定規則とD-ダイマー値を適用した場合の診断の効率性や失敗率。あるいは年齢・性別・既往などの特定のサブグループにおける有効性の差異

 

【新たにわかったこと】

年齢調整した D ダイマー閾値または検査前確率に依存する D ダイマー閾値を適用すると、診断の効率性が高くなるが、予測失敗率も高くなる

 

【今後の使用をどう変えるか】

検査前確率に応じたD-ダイマー値の利用は効率性が高い一方で失敗率も高い。しかし、高齢者や担癌患者などそもそもPE発症の可能性が高い患者群については失敗をしてでも、その死亡率を踏まえればPEの診断につなげる価値は高いと考えるので効率性に焦点を応じて適応D-ダイマー値を使用するべきと考える。

 

 

【沼澤先生発表】

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メタアナリシスでは、「陰性」のCPRSとDダイマー低値の組み合わせは、PEを除外するための陰性適中度が非常に高いことを確認しています。年齢補正、検査前確率、YEARS基準を用いてDダイマー閾値を調節することは高リスク群であっても安全と思われ、画像検査の過剰使用を制限できることになります。

 

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高齢者の場合などはDDが上昇傾向にあり、年齢調節が必要ですが、追試でもその安全性が証明されました。

 

 

肺塞栓のCPRsはDD頼みのところがあります。そのため、十分に診察せずDDをオーダーして時間稼ぎをしてあとでCTを決める傾向があります。近年のPERCは、そもそも低リスクならDDは不要であること、またDDを図るならきちんと診察すべきこと臨床医に再認識させています。

 

今後の肺塞栓のCPRsはPERCとYERSの2段構えが主流となる理由がここにあります・

 

とりあえずDDというのは肺塞栓診療では正しくありません