院外発症の難治性心停止患者に早期ECMO導入は生存率や神経予後を変えるか?

 

ROSC患者に対する緊急CAGの適応は、STEMIは必須、NSTEであれば不要ということを去年の抄読会で確認しました(2022.05.23 ROSCしたら心カテは必須?https://www.higashi-tokushukai.or.jp/er/jurnal/details/rosc.html)。

今回は「院外発症の難治性心停止患者に早期ECMO導入は生存率や神経予後を変えるか?」というギモンに答える2つの論文を読んでみました。

 

1つめの論文です

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タイトル

Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1807-1816.

Advanced reperfusion strategies for patients with out-of-hospital cardiac arrest and refractory ventricular fibrillation (ARREST): a phase 2, single centre, open-label, randomised controlled trial

PMID: 33197396

 

・わかっていること  

30~40分以上の心肺蘇生を必要とする患者は、基本的に標準的な高度救命処置(ACLS)での救命可能性が極めて低い。一方、その中でも初期波形がshockable rhythmである患者に対するECMO導入は救命率の向上に寄与する。

 

・わかっていないこと 

院外発症の難治性心停止患者の生存率に対して早期ECMO導入は標準ACLS治療に比べて生存率を上昇させるか。

 

・論文で新たにわかったこと

十分に組織化され経験を積んだシステムであれば、ECMOの早期実施により難治性心停止患者の生存率が有意に向上することが示された。

 

・今後の診療をどう変えるか

初期波形がshockable rhythmである院外心停止に対して早期にECMO導入を行うためのシステム構築を行うべきかもしれない。

 

 

 

 

【長谷川先生発表】

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適応症例に導入すれば生命予後は改善します。では神経予後はどうなのでしょう? そこで2つめの論文です

 

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【タイトル】

Effect of Intra-arrest Transport, Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation, and Immediate Invasive Assessment and Treatment on Functional Neurologic Outcome in Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest

 

【研究目的】

早期の侵襲的アプローチに(体外式生命維持装置による循環不全の一時的な置換)より難治性院外心停止(OHCA)患者の神経学的予後が改善するか

 

【わかっていること】

難治性心室細動を有するOHCA患者に対するECMOによる早期蘇生が標準的な心肺蘇生と比較して、有意に生存率を改善する(ARREST試験)

 

【分かっていない事】

OHCA患者に対するランダム化試験は上記ARREST試験しかなく、ECPRによる予後改善の論証はない

 

【研究概要】

自発循環に戻らない心臓由来と推定される目撃者のある院外心停止256例の内、124例でECPRが施行され、132例は通常の心肺蘇生プロトコルが継続された。

神経状態を5段階、

1.(意識あり、注意力あり、仕事できる) 

2.(意識あり、日常生活自立、保護された環境で仕事できる) 

3.(意識あり、日常生活を他人に依存) 

4.(昏睡、植物状態) 

5(脳死)に定義し、1と2を良好な神経状態であるとした上で180日後を評価

 

【結果・新たに分かったこと】

今回の研究では侵襲的アプローチによる180日後の神経学的予後改善の有意差は出なかった。(30日後に関しては、有意に神経学的予後改善するという結果が出た)

 

【今後の診療をどう変えるか】

侵襲的アプローチによる180日後の神経学的予後改善の有意差は出なかったが、この試験自体が臨床的に有意差を検出するのに力不足であった可能性がある

 

【伊藤先生発表】

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救命はできても神経予後は必ずしも改善するわけではないこと結論づけられています。

PCPS・ECMOの導入は循環器医が実施しており彼らと協議して治療方針を決めています。

 

今回の情報を加味して、ここに患者家族も踏まえて治療を相談するのが理想的なのかもしれません。

議論の分かれるところですが、みなさんの病院ではどうでしょうか?